地域活動やボランティア、会社のチームなど、人が集まる場所には必ずと言っていいほど直面する瞬間があります。
それは、あなたが一生懸命伝えたはずのことが、誰かから「そんな話、聞いてない!」と強く否定される時です。
報告や連絡を怠ったわけではないのに、なぜか毎回この一言に空気が凍りつき、説明すればするほど泥沼にはまる…。
以前の私もそうでした。
つい「いや、言いましたよ」と反論し、正しさを証明しようとしていました。
しかし、ある時気づいたのです。
集団を円滑に運営する上で、「正しいこと」より「気持ちよくいられること」のほうが、遥かに大切だと。
今回は、私がリーダーの立場で実践し、場の調和を取り戻すことができた、「聞いてない」に反論しないための具体的な対応と、その決断に至った深い理由についてお話しします。
1. 「聞いてない」は本当に伝わっていないのか?
私の監督するボランティアグループは、平均年齢70代前半です。ほとんどの方は協調的で穏やかなのですが、運営上の決定事項を伝えた後、必ずと言っていいほど「聞いてない」という声が上がることがありました。
最初は「私の伝え方が悪かったのか?」と反省し、より丁寧に、より多くのツールを使って情報を共有しようと試みました。
しかし、冷静に観察していると、ある事実に気づいたのです。それは、「聞いてない」=「伝えていない」ではない、ということでした。
年齢を重ねると、残念ながら記憶の抜け落ちは誰にでも起こります。連絡網で伝えても、メールで送っても、実際に口頭で話していても、「あれ、そうだったかな?」と記憶からこぼれてしまうケースが非常に多いのです。
この現象を、以前の私は「伝達ミス」と捉え、自分の正しさを証明しようと反論していました。
「〇月〇日の会議で資料を配りましたよね?」 「〇〇さんに、電話でお伝えしたはずですが?」
これは、正しいかもしれませんが、最適ではありませんでした。
2. 反論の代わりに、穏やかさを選ぶ「最高の返し方」
反論がもたらすのは、相手の「防衛本能」。
自分の記憶違いを指摘されると、人間は不快になり、さらに強固に「聞いてない」という立場を守ろうとします。
ここで私は、徹底的に「反論しない」というルールを自分に課しました。
私が実践し、空気の摩擦を劇的に減らした返し方は、
「そうですね、次からもう少しはっきりお伝えしますね」
という一言です。
ポイントは、相手の「聞いてない」という主張を、「そうですね」と一旦すべて受け止めること。そして、相手の記憶違いを指摘する代わりに、「私の伝え方が不十分だったかもしれない」というスタンスをとり、改善の意思を示すことです。
正しいのは私かもしれませんが、「あなたは間違っている」というメッセージは一切送りません。こうすることで、相手は気持ちよく情報の受け皿に戻り、それ以上の追及をやめてくれることがほとんどでした。
3. 正しさを手放すことで見えた、相手の「不満」
特に発言が強めで、何かあると私や他のメンバーと比較するような発言をする特定の女性メンバーがいました。
最初は彼女の言動に戸惑いましたが、よく見ていると、彼女はとても真面目で一生懸命、仕事とボランティアを掛け持ちして頑張っている人でした。
彼女の強い言葉の根底にあるのは、「正しく伝わってないことへの怒り」ではなく、むしろ「評価されないもどかしさ」や「不安」だったのかもしれません。
彼女は、自分が一生懸命やっているのに、情報の共有が不十分に見えたり、決定に加われないと感じたりすることで、「頑張っているのに報われない」という潜在的な不満を、時に「聞いてない!」という形で表現していたのだと理解するようになりました。
4. まとめ:温かい雰囲気が、最高の成果である
グループ運営において、「正しく伝えること」「公平に判断すること」は確かに重要です。しかし、そこに固執しすぎると、かえって温かい雰囲気が壊れてしまうという代償を払うことになります。
ボランティア活動の本当の目的は、大きな成果を出すことよりも、「一緒に気持ちよく過ごし、活動を継続すること」だと私は考えます。
正しさを証明するために時間とエネルギーを費やすよりも、軽く笑いながら、時に誤解さえも静かに受け流す心の余裕を持つこと。
この「正しさより穏やかさ」を選ぶ決断こそが、みんなが安心して関わり続けられる、最も生産的なチームの土台になるのです。この気づきを得てから、私の心も、グループの空気も、格段に軽くなりました。
終わりに:心の余裕が、チームを救う
リーダーシップとは、必ずしも「すべて正しい答えを知っていること」ではありません。むしろ、「場の空気を整え、誰もが安心して発言できる環境をつくること」こそが、真の役割だと、私はこの経験から確信しました。
もし今、あなたが誰かの「聞いてない!」という言葉に心をざわつかせているなら、ぜひ一度、「反論」という名の武器を置いてみてください。
そして、静かに微笑んで「そうですね、次からもう少しはっきりお伝えしますね」と返してみてください。
「いつもそうやん」… それもその場では軽くうけながしましょう。
正しさの証明を手放し、穏やかさを選んだその瞬間、あなたの心にも、そしてあなたがまとめるグループにも、きっと温かい調和が訪れるはずです。
正しさにこだわるのではなく、調和と穏やかさを保つ。
この心の余裕こそが、集団を長く、気持ちよく継続させるための最高のスキルなのですから。
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