部屋に入った瞬間、「ああ、これはなかなか手強そうだ」と思うことがあります。
壁は本来の白さを失い、全体がうっすらと黄色い。
天井も同じようにくすんでいます。
そして、見た目だけではありません。
長年、そこで吸われてきたタバコのニオイが、部屋のあちこちに残っています。
壁や天井を洗いながら、「この部屋は、もともとはどんな色だったんだろう」と思うことがあります。
もちろん、答えは作業を続けていけば分かります。
洗ったところだけが、少しずつ白くなっていくからです。
「あ、ここまで白かったんだ」
そんなふうに、本来の姿が少しずつ現れてくる。
ヤニ清掃には大変な作業も多いのですが、この瞬間は何度経験しても気持ちがいいものです。
そして作業が終わり、入居者様に部屋を確認していただきました。
一歩、中に入る。
少し周囲を見回す。
そして、表情が変わりました。
“Wow, the yellow stains and the smell are completely gone!”
「うわあ、黄ばみもニオイもすっかりなくなっていますね!」
確かに、さっきまでの部屋とはまるで違います。
壁は明るくなり、部屋全体の印象まで変わっていました。
そこで私も、こんなことを言いました。
It is soothing to the senses to step into a space free from smoke odor, isn’t it?
直訳すれば、
「タバコのニオイがない空間に入るのは、五感にとって心地よいですよね」
というような意味です。
少し大げさな表現にも聞こえるかもしれません。
でも、あの部屋の変化を目の前にすると、「きれいになりましたね」だけでは何となく足りない気がしました。
ニオイが消えただけではありません。
部屋の空気そのものが変わったように感じたからです。
すると入居者様も、
“Absolutely! I can finally take a deep breath in here. It feels like a completely different room.”
「本当に! やっとここで深呼吸できます。まるで別の部屋みたいです」
と笑っていました。
「別の部屋みたい」
清掃をする人間としては、なかなかうれしい言葉です。
さらに、きれいになった壁を見ながら、私はもう一言。
It is soothing to the eyes to see the original white walls again, too.
「本来の白い壁が戻ってくると、目にも気持ちがいいですね」
ヤニで黄色くなった壁を見続けていたからこそ、白さが戻った時の印象は強烈です。
普段なら何でもない「白い壁」なのに、その日は少し違って見えました。
「きれいになった」だけではない
清掃の仕事をしていると、汚れが落ちる瞬間を何度も見ます。
でも、面白いのは、変わるのが壁や床だけではないことです。
部屋が変わると、そこに入った人の表情も変わることがあります。
「わあ」
「明るくなった」
「なんだか空気まで違いますね」
そんな一言が出る。
その瞬間、こちらも「ああ、やってよかったな」と思います。
今回使った soothing という言葉には、「心を落ち着かせる」「心地よい」というニュアンスがあります。
- soothing to the senses
五感に心地よい - soothing to the eyes
目に優しい、見ていて心地よい
また、タバコのニオイは smoke odor、ヤニの汚れは状況によって nicotine stains や nicotine residue などと表現できます。
もちろん、現場では難しい英語を使う必要はありません。
It’s so clean now!
「すごくきれいになりましたね」
これでも十分です。
ただ、目の前で起きている変化を、お客様と一緒に味わいながら言葉にしてみる。
すると、単なる「作業完了の確認」だった会話が、少し違ったものになる気がします。
黄色くくすんでいた部屋。
染み付いていたタバコのニオイ。
それが消え、本来の白い壁が戻ってきた。
その部屋に一歩入った入居者様が、思わず笑顔になる。
清掃の仕事では、そんな瞬間に出会えることがあります。
そして、その時の英語は、教科書の中で覚えたフレーズではなく、
「今、この部屋で起きたことを、一緒に感じたくて出てきた言葉」
になるのかもしれません。

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