冗談を言う?言わない?──バス添乗で気づいた英語コミュニケーションの境界線

夜の神戸と、隣に立つ「言葉のプロ」

 

昨夜、私は神戸の街を走るバスの中にいました。

ANAクラウンプラザホテル神戸を出発し、海外からの参加者を乗せて二つのホテルへと向かうバス。パートナーと2人で添乗しましたが、私はその道中、彼の姿に釘付けになりました。

彼は英語のアウトラインを時折確認するだけで、あとは実に落ち着いた、滑らかなトーンで案内を続けていました。

まるで、ただ呼吸をするように自然な英語。

その余裕ある姿を見て、「自分もこんなふうに、言語の壁を感じさせない案内ができるようになりたい」と強く感じて、この記事を書いたわけです。

 

「ホームレスになっちゃうよ!」の衝撃と安堵

 

バスが目指すのは、オリエンタルホテル神戸と、ホテルニューオオクラ。名前がよく似ていて、初見のお客様にとっては間違えやすい組み合わせ。

もし間違った場所で降りてしまえば、夜中に大きな荷物を持って移動しなければならず、大変な「ややこしさ」を生んでしまう…

そこで、パートナーがマイクを握り、少しトーンを上げてこう言いました。

“If you’re staying at the Hotel Okura, please don’t get off here. If you do, you might end up homeless tonight!” 😄

その瞬間、バスの中は一気に笑いに包まれました。皆、固かった表情が緩み、リラックスした様子に変わったのです。必要な注意を、ユーモアというオブラートに包んで届ける。私はその「言葉の力」に感銘を受けました。

結果として、乗客の約8割の方が最初のオリエンタルホテルで、残りの約2割の方がホテルニューオオクラで降車しました。あの冗談が効いたのか、あるいは丁寧な確認が奏功したのか、間違って降りてしまう人はいなかったのでよかった!。内心、「やれやれ」とホッと胸をなでおろしました。

 

ユーモアとフォーマルの間で揺れる心

 

確かに、あの冗談は場を一瞬で和ませ、お客様の記憶に注意点を深く刻みつけましたわけですが…しかし同時に、私の心には小さな「けれども」が湧き上がってきたのです。

「フォーマルな、もっと厳密なビジネスの場面でも、同じように言えるだろうか?」

たとえば、初めてのツアーでのお客様。あるいは、文化や背景が全く異なる国の方を案内しているとき。ユーモアは最高のスパイスですが、「相手のミスを笑いにするような表現」は、英語圏では時に意図とは異なるニュアンスで強く響くことがあるからです。相手のパーソナリティやその場のTPOによっては、冗談が通じず、かえって戸惑いや不快感を与えてしまう可能性も否定できません。

同じ注意を、ユーモアを封印して伝えるなら、こんな言い方になります。

“Please make sure you get off at the correct hotel. I’ll let you know each stop, so no need to worry.” (「降車場所は私から丁寧にお知らせしますので、ご安心ください。」)

ユーモアはありませんが、そこにあるのは安心感と揺るぎない信頼感。

 

短い乗車で試したい!「言葉の温度」別アナウンス術

 

今回のように短い乗車時間では、伝える情報が限られます。そんな時こそ、ユーモアで場を和ませるか、気配りで安心感を与えるか、どちらかの要素をギュッと凝縮させたほうがいいかな〜、と。

それで、今後意識したい、短い乗車でも効果的な「言葉の温度」別アナウンス例をまとめてみました。

 

【温度:高】親近感とユーモアで距離を縮める

 

  • 「アイスブレイク」の一言で旅の疲れをほぐす
    • “Welcome back! I hope you had a fantastic (dinner/day). We’re going to get you back to your lovely bed in about 15 minutes.”
    • (おかえりなさい!素晴らしい時間をお過ごしになれたでしょうか。あと15分ほどで、皆様を素敵なベッドまでお連れします。)
  • 「神戸の夜景」をスパイスに、移動時間を体験に変える
    • “If you look to your right, you can see a glimpse of Kobe Port Tower. It’s a beautiful sight tonight. Enjoy the short ride!”
    • (右側を見ていただくと、神戸ポートタワーがちらっと見えますよ。今夜も美しい光景です。短いドライブを楽しんでくださいね!)

 

【温度:中〜低】気配りと安心感を確実に伝える

 

  • 「安心感」を先に届ける英語で不安を取り除く
    • “Don’t worry about missing your stop; I will clearly call out each hotel’s name and walk you through the process. Your safety is our priority.”
    • (ご安心ください、乗り過ごす心配はありません。私がホテルの名前をはっきりお伝えし、降車までご案内します。皆様の安全が最優先です。)
  • 「名前が似ている問題」を回避する確実な降車案内
    • “Just a reminder: Oriental Hotel Kobe is the first stop. If your hotel name has ‘Okura’ or ‘New’ in it, please stay seated!”
    • (改めてのご案内です。オリエンタルホテル神戸が最初の停車です。「オークラ」や「ニュー」が付く方は、そのまま座っていてくださいね!)

 

「言葉の温度」を選ぶということ

 

この夜の経験は、私にとって英語コミュニケーションの奥深さを知る、決定的な瞬間でした。場の雰囲気が少し違うだけで、選ぶ言葉のトーンはガラリと変わる。そこにこそ、私が意識すべき「英語コミュニケーションの境界線」があるように感じたんですね。

英語が上達するというのは、単に語彙を増やすことでも、文法を磨くことでもないのかもしれません。それは、この「言葉の温度」――相手との距離感、その場のフォーマリティ、そして最も届けたいメッセージの本質――を瞬時に判断し、適切な言葉の器を選べるようになること、だと。

それで、次にバスでマイクを握る日が来たら、私は少し迷いながらも、自分なりの“境界線”を意識して話してみようと思います。

笑いと、思いやり。 ユーモアと、配慮。

どちらも欠かせないものですが、今の私が目指したいのは、笑いよりも、安心感と温かい思いやりを選ぶ英語です。

そのバランスこそが、真のグローバル・コミュニケーション能力だと信じて…
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