「前は落ちた」と言われた時の考え方
――その一言に振り回されないために
① その一言で、現場の空気が凍りつく
「えっ、でも前にお願いした時は、綺麗に落ちましたよ?」
担当者や施主から、悪気なく投げかけられるこの一言。
清掃の現場に立つ人なら、一度は経験があるはずです。
胸の奥がザワッとする。
今、目の前の素材と真剣に向き合っている自分の判断を、
丸ごと否定されたような感覚。
反論すれば角が立つ。
黙れば「技術が足りない」と思われる。
この「前は落ちた」という言葉は、
現場の判断を最も狂わせやすい“呪文”のひとつです。
では、プロはこの一言とどう向き合えばいいのでしょうか。
② 結論:「前は落ちた」は、今の判断材料にならない
最初に、はっきり言います。
「前は落ちた」という事実は、
今の現場では“判断材料にならない”ことがほとんどです。
なぜなら、清掃の結果は
無数の条件が偶然噛み合って成立しているからです。
前回の成功は、
今回の成功を保証してくれる“再現性の証拠”ではありません。
③ なぜ「前」と「今」は決定的に違うのか
プロの目で見れば、
「前」と「今」は、まったく別の現場です。
条件が一つ変わるだけで、結果は簡単に変わります。
- 素材の違い:
同じ色・同じ木目に見えても、
シート・突板・無垢では耐性が違う - 経年変化:
紫外線、摩耗、乾燥による劣化 - 汚れの性質:
表面付着なのか、沈着なのか、
それとも素材自体の変色なのか - 前回の代償:
実は前回、素材を“壊す寸前”まで攻めて
たまたま成立していただけの可能性
「前に落ちた=正しい方法」ではありません。
成立していただけというケースは、現場では珍しくないのです。
④ 「前は落ちた」という言葉が生まれる心理
ここで大切なのは、
相手を「嘘つきだ」と決めつけないことです。
この言葉が出てくる背景には、
人間として自然な心理があります。
- 記憶の美化:
人は成功した印象だけを強く覚える - 成功体験への執着:
一度できたことは、次もできると思いたい - 説明の簡略化:
上司や施主に説明する時、
「前はできた」が一番分かりやすい
悪意ではありません。
ただ、現場判断に必要な情報を持っていないだけなのです。
⑤ 現場でやってはいけない「3つの反応」
この一言に対して、
次の反応をすると、状況はほぼ確実に悪化します。
① 真っ向から否定する
「それはあり得ません」「違います」
これは説明ではなく、対立の合図です。
相手は感情的になり、話は進まなくなります。
② 技術で殴る
専門用語を並べ立てて説明するほど、
相手はこう感じます。
「理屈を並べて逃げているのでは?」
③ 無理に再現しようとする
これが最も危険です。
焦って強い薬剤を使う。
強く擦る。
結果、素材を壊し、
責任だけが自分に残る最悪の展開になります。
⑥ 「前は落ちた」を“使える情報”に変える
プロの対応は、否定ではなく確認です。
相手の言葉を材料にして、
今の現場を分析するための情報に変換します。
- 「その時は、どんな汚れ方でしたか?」
- 「前回はワックスや保護剤は入っていましたか?」
- 「その時と、素材は同じものでしょうか?」
質問を投げ返すことで、
会話の主導権は自然とこちらに戻ります。
「前と今の違い」を
一緒に確認する作業に変えていくのです。
⑦ 最終判断は「今・ここ・この素材」
プロが責任を持つべきなのは、
過去の誰かの成功体験ではありません。
- 今、どういう状態なのか
- 今、どう反応するのか
- 今、この素材が耐えられるのか
判断基準は、常に現在進行形です。
過去は参考にしても、
判断を委ねてはいけません。
⑧ まとめ|プロは“前例”より“再現性”を見る
プロが信じるべきなのは、
「前は落ちたかどうか」という記憶ではなく、
**「今ここで、安全に再現できるかどうか」**という事実です。
「前は落ちた」という言葉に振り回されず、
判断軸を目の前の素材に戻す。
それが、
現場でブレないプロの姿勢です。
プロの仕事とは、過去をなぞることではありません。
今のベストを、正確に判断することです。
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