今回の現場は、都心にある築22年のワンルームマンションでした。
賃貸物件のため、過去に何度も住人が入れ替わっているのは確実で、そのたびに浴室の使われ方はまちまちです。
現場に入ると、床の隅々まで汚れが入り込んでおり、正直、手ごわい現場であることを直感しました。
中でも最も厄介だったのが、浴室の折り戸(扉)の内側、床との境にあるゴムパッキンです。
カビとも変色ともつかない、見るからに頑固な濃い黒ずみが全体に広がっていました。

「お金をもらって作業している以上、なんとか綺麗に決めたい」—それがプロの意地です。
まずは、最も効果が期待できる、あの定番の方法から試すことにしました。
1. 誰もが試す定番のカビ取り法を検証
YouTubeで有名な「カビキラーシップ」の効果は?
ゴムパッキンの黒カビ対策として、今や誰もが知る有効な手法があります。それは、塩素系漂白剤(カビキラーなど)を使ったシップ(湿布)です。
私のハウスクリーニングのツールボックスには、この日のために100均で購入したキッチンペーパーが常備されています。
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キッチンペーパーを細長くハサミで切る、またはよじる。
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黒ずんだゴムパッキンに沿って、その細長いキッチンペーパーをピッタリと押し当てる。
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事前に、そして上から、たっぷりとカビキラーを噴霧する。
この通りに実行し、パッキン全体を泡泡のシップ状態で覆い尽くしました。カビキラーの成分がじっくりと浸透し、築22年ものの強敵を白く漂白してくれることを心の中で強く願いました。
カビキラー塗布から30分。期待と残酷な結果
通常のカビであれば、15分〜30分もシップすれば、目に見えて色が薄くなるなど何らかの変化が現れるはずです。

そして、その上からもカビキラーをたっぷりと噴霧したら、このような泡泡な状態になりました。

しかし、30分経過し、期待を込めてシップを剥がしてみると……
「残念… ほとんど何も変わらず」
正直なところ、驚きを通り越して落胆しました。

たとえ古いカビであったとしても、これだけ強力な漂白剤を使い、時間をかけて密着させれば、完全に取れずともわずかな色の変化はあるものです。
にもかかわらず、全く変化がないということは、これは単純な黒カビではないという結論に至ります。
時間をかけてカビキラーに頑張ってもらうことに価値はありません。
ここからは、汚れの正体を突き止めるフェーズに入ります。
2. 核心に迫る:それはカビではなく「変色」だった
なぜ落ちない?プロの結論「洗剤による化学変色」のメカニズム
カビ取りの手法が無力であったという事実は、私の調査の方向性を明確にしました。キーワードは「ゴムパッキン 変色」です。
その結果、判明したのがゴムパッキン特有の化学変化でした。
ゴムパッキンの素材は、水や湿気、そして洗剤に長時間さらされると化学反応を起こし、それ自体が変色してしまう性質を持っています。
特に強力なのが、私たちが使ったカビキラーなどの塩素系漂白剤です。
過去の入居者や清掃業者が、カビを完全に落とそうと長時間(一晩など)漂白剤を放置した結果、塩素系成分がパッキン内部に浸透。ゴム素材の色素と化学反応を起こし、元の白色やグレーではなく、濃い茶色やグレー、あるいはピンクといった汚らしい色に変色させてしまったのです。
この「変色」は、素材そのものが別な色に変わってしまった状態であり、表面の汚れではありません。
つまり、カビキラーのような漂白剤では、変色した素材を元の色に戻すことは不可能なのです。
【注意】カビキラーの長時間放置が変色を招く
変色のメカニズムを知ると、私たち清掃業者はもちろん、一般のユーザー様にも注意喚起が必要です。
カビキラーのパッケージには「長時間放置しないこと」という注意書きが必ずあります。
これは、漂白効果を期待する時間を超えて放置すると、カビ取りの効果が高まるのではなく、この「変色」リスクを高めてしまうからです。
カビ取り剤はカビを攻撃する強力な武器ですが、使い方を誤ると、元の素材を傷つけ、取り返しのつかない汚れ(変色)を作り出してしまうのです。
3. プロの最終手段:変色への現実的な対応と補修術
変色と判断した以上、これ以上カビキラーなどの洗剤を使うのは、完全に時間の無駄です。プロとして、次の行動に移らなければなりません。
「時間の無駄」と判断した後のプロの行動とクレーム対応術
この段階で、私たちは「漂白」という選択肢を完全に諦め、**「補修」**という選択肢に切り替えました。
パッキン自体を新品に交換するのが最良ですが、それはオーナー様や管理会社の管轄であり、ハウスクリーニングの範囲を超えます。
そこで、清掃のプロが現場でできる現実的な最終手段が、「カビ隠し(補修材)」の塗布です。
私がその日行ったのは、市販の浴室用補修材(カビ隠し)を使い、汚らしい濃い色に変色したパッキンを補修することでした。
結果として、真っ白にはなりませんでした。しかし、濃い黒や茶色のムラが消え、全体が均一なグレーっぽい一色になることで、何もしない状態よりは格段に「マシ」に見える仕上がりになりました。
この「見た目の改善」が、賃貸物件のハウスクリーニングにおける非常に重要なポイントです。
この状態であれば、ほとんどの入居者が短期間の在住であるため、クレームが出ることは稀です。
変色を「真っ白」にするためのプロ仕様補修術(油性塗料の活用)
しかし、中には「どうしても真っ白にしてほしい」という厳しいお客様やオーナー様もいらっしゃいます。
その場合の最終手段として、油性塗料の出番となります。
変色したゴムパッキンに色を塗る場合、水回りである浴室では水性塗料はすぐに剥がれてしまうため、不向きです。
油性の白いエナメル塗料や、**浴室用のシリコン系補修材(白)**を用いることで、耐久性があり、確実な「真っ白」の仕上がりを目指すことができます。
この作業を行う際の重要なコツは以下の通りです。
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完璧なマスキング: 塗料がタイルやドア枠にはみ出さないよう、パッキンの両端に細いマスキングテープを貼ります。仕上がりの美しさはこれで決まります。
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脱脂と乾燥: 塗布前にパッキン表面をアルコールなどで拭き、完全に油分・水分を取り除いて乾燥させます。これを怠ると塗料の密着性が激減し、早期に剥がれてしまいます。
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薄塗り・重ね塗り: 一度で完璧に塗ろうとせず、薄く均一に塗る作業を2~3回繰り返し、完全に乾燥させて仕上げます。
4. 【ハウスクリーニング】お客様に納得してもらうための「伝え方」
クレーム対応を避ける上で最も大切なのは、快く尽くす姿勢と**「説明責任」**です。
もし、お客様から「なぜカビが落ちないのか」と聞かれた場合、専門家として以下の点を明確に伝えます。
「この汚れは、カビではなく過去にカビキラーのような強い漂白剤が長時間触れていたことによる素材自体の『変色』です。化学反応で素材の色が変わってしまっているため、洗浄や漂白では元に戻せません。今回は補修材を使って目立たないように処置させていただきました。」
このように、**「原因の特定」と「可能な限りの対応」**をセットで説明することで、お客様は納得しやすくなります。プロが「これはもう落ちない」と判断した根拠を理解してもらうことが、信頼に繋がるのです。
まとめ:ゴムパッキンの汚れは「カビ」か「変色」か。まずは見極めが重要
今回の体験を通して、ハウスクリーニングにおいてゴムパッキンの黒ずみは、単なるカビだけでなく、洗剤による「変色」である可能性が非常に高いということを再認識しました。
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カビ: 漂白剤で薄くなる可能性がある。
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変色: 漂白剤で全く変化しない。補修が必要。
変色を防ぐための日常アドバイス(再掲)
今後のトラブルを避けるために、お客様にはぜひ次の予防策をお伝えください。
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塩素系漂白剤は指定時間(15〜30分)を守り、長時間放置しない。
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漂白剤使用後は、成分を徹底的に洗い流す。
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普段のカビ予防には、変色リスクのないアルコール除菌を活用する。
この知識が、あなたの今後のハウスクリーニングの現場で、無駄な労力と時間を省き、お客様の信頼を勝ち取る一助となれば幸いです。
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