📌 はじめに:濃色フローリングのワックス剥げ跡は要注意
濃い色のフローリングはシックでモダンな印象を与えますが、ハウスクリーニングの現場においては、小さな傷やワックスの剥げ跡が非常に目立ちやすいという難点があります。
今回のレポートは、特に濃紺色のフローリングで遭遇した「水玉状のワックス剥げ跡」を巡るエピソードです。
安易なワックス重ね塗りを選択した結果、一時的に目立たなかったはずの剥げ跡が、乾燥後にかえって濃淡を強調してしまった失敗談。
ここから学んだプロとしての教訓と、リスクを避けた現実的な修復法について解説します。
1. 現場での初期判断とコミュニケーションの落とし穴
作業中、担当のTさんが現場を訪れた際、私は「このフローリングは、ペットの糞尿か何かをこぼした跡でワックスが溶けている可能性があります。
私がワックスを塗ってもその跡は見えるのですが大丈夫ですか」と伝えました。
この時の最初の対応が、後の結果を分ける落とし穴となりました。
誤判断を誘発した「内装の糊」
Tさんに「どこがですか?」と聞かれ、最も汚れている箇所を濡れ雑巾で拭いたところ、それは内装業者がつけた糊汚れで、あっさり取れてしまいました。
【落とし穴】 「これは取れましたね。では他も内装跡かな」という流れになり、Tさんの中で「深刻な剥げ跡ではなく、クリーニングで取れる汚れ」という認識が強くなってしまいました。
私は「内装屋さんの汚れは取れますが、前の入居者のワックス剥げはクリーニングでは無理です」と再度伝えましたが、糊汚れが取れた直後だったため、剥離の必要性に対する危機感は共有できませんでした。
2. 重ね塗りの選択とその後の悲劇
最終的に、Tさんからは剥離作業の要望は出ず、私は洗浄後、剥げ跡が水に濡れて目立たなくなっているのを確認し、ワックスをたっぷり塗布しました。
ところが乾燥後、事態は悪化しました。
仕上がり確認時、水玉のような剥げ跡は、塗布前よりも 「非常に目立つ状態」になってしまったのです。
これは、ワックスが剥げて層が薄くなっている部分と、残っている部分の「濃淡の差」が、透明な新しいワックス層によって強調され、光の反射で際立ってしまったためと考えられます。
この時、「やっぱりゴリ押ししてでも部分剥離をすべきだった」と後悔しましたが、疲労と時間の制約から、その日は引き上げざるを得ませんでした。
後で何か言われたとしても、その件はさっき説明したし、最悪後でクレームのように何か言われても後日剥離Waxで済むと思ったからです。
3. プロが選ぶ「リスクを避けた現実的な修復法」
翌日、同僚がTさんから「この水玉跡、なんとかなりませんかね」と相談を受けました。この時の同僚の対応と、Tさんが選んだ方法は、今後の作業の教訓となります。
同僚の提案:剥離 vs. 重ね塗り
同僚はTさんに対し、以下の二つの選択肢を提案しました。
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【根本解決】剥離作業を行う: 水玉跡は完全に消えるが、床材に剥離剤が吸い込む、隙間から侵入して床材が浮くなどのリスクが伴う。
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【緩和策】ワックスをもう一度重ね塗りする: 濃淡を少し和らげる効果は期待できるが、完全には消えない。
結果、Tさんは「リスクを伴う剥離」ではなく、「費用をかけても重ね塗りによる緩和策」を選択しました。
クレームではなく追加依頼としてワックス再塗布が決定し、同僚が対応しました。
🔑 現場の教訓:顧客心理とリスク回避
このエピソードから得られた最も大きな教訓は、以下の2点です。
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顧客(管理会社など)の最優先事項は「リスク回避」:費用や手間がかかっても、床材の浮きや反りといった「建物の躯体に影響するリスク」を最も恐れるため、根本解決につながる剥離よりも、目立たなくする緩和策を選びがちである。
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プロとしてのベストと現実的な落としどころの提示:私が持っていた「この床材なら、部分剥離(メラミンスポンジなどを活用し、剥離剤の使用量を極少量に抑える方法)でリスクを最小限にして修正できる」というスキルは、作業前の段階でこそ最も伝えるべき情報だった。
5. 結論と教訓:プロとしての判断を貫くために
今回のエピソードは、単なる作業工程のレポートではなく、「仕上がりの品質」と「顧客とのリスクコミュニケーション」の難しさを痛感した苦い経験となりました。
核心的な教訓:プロとしての判断を譲らない強さ
この失敗から学んだ最も大きな教訓は、「目先の楽な選択(重ね塗り)が、最終的に品質を落とし、手間を増やし、信頼を損なう」ということです。
ワックスが剥げている濃色フローリングに重ね塗りを行った時点で、「水玉模様が目立つ」という結果はプロとして予測できたはずです。
その予測を無視し、目の前の時間や、一時的に取れた糊汚れという情報に流され、最善策である剥離作業の必要性を強く主張できなかった、私の判断の甘さが最大の原因です。
二度手間になった挙句、リスクを恐れて「緩和策」を選んだ顧客の要望に応えるのはプロとして当然ですが、「時間をかけてでも最善を追求する姿勢」こそ、顧客からの真の信頼につながると痛感しました。
プロの提言:最善の修復法は「低リスク部分剥離」
濃色フローリングのワックス剥げ跡を修正する上で、プロとして推奨し続けるべきは以下の方法です。
最善の修復法は、全面剥離ではなく、リスクを最小限に抑えた部分剥離です。
剥離剤を床材に浸透させる時間を極端に短くし、メラミンスポンジなどでピンポイントに剥げ跡のみを処理する方法なら、床材の浮きや反りのリスクを避けつつ、重ね塗りで濃淡が目立つという事態を防ぐことができます。
手間はかかりますが、これが「建物の躯体リスクを避けたい顧客」と「最高の仕上がりを目指したいプロ」の双方を満足させる唯一の方法です。
濃色フローリングのワックス剥げ跡に関するプロのこだわり
最後に、今回の経験を通じて私が強く主張したい、フローリングクリーニングに関するこだわりのポイントをお伝えします。
ワックスの重ね塗りについて、「絶対にダメですか?」と問われれば、「ダメではないが、濃色フローリングでは避けるべき」が私の強いこだわりです。白い床材なら濃淡は目立ちにくいですが、濃色ではワックス層のわずかな違いが光の反射で強調されます。ごまかしが効かないと肝に銘じています。
また、剥離作業をゴリ押しすべきだったかという反省点については、ゴリ押しではなく、「リスクの低い部分剥離」を丁寧に説明し、時間を確保すべきでした。顧客が最も恐れる「床の浮き」リスクは、部分剥離で回避できると具体的に伝えれば、納得を得られたはずです。
結局、ハウスクリーニングで最も重要なのは、「時間確保と初期のコミュニケーション」です。技術力があっても、急かされて妥協策を取れば、仕上がりは必ず落ちます。最高の仕上がりには時間が必要であること、そしてその時間の根拠となるリスクを、プロの言葉で正確に伝える交渉力が、技術力と同じくらい重要だと考えます。
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