なぜポリッシャーなしの剥離が必要なのか?
私たちが今回担当したマンションの共用廊下は、まさに「人通りが多く、狭い」という二重の課題を抱えていました。

築20年超の床の現状と剥離が必要な理由
長年にわたりワックスが重ね塗りされてきた結果、床は摩擦や汚れを吸着し、黒ずんで見るも無残な状態になっていました。
定期的に高速バフで磨きをかけてテカリを出してはいましたが、汚れがワックス層の奥深くまで入り込んでいるため、表面的な洗浄だけでは限界です。
この状態から床材本来の美しさを取り戻し、ワックスの密着性を高めるには、古いワックス層をすべて除去する「剥離作業」が必須となります。
現場の最大の課題: 人通りが多く、狭い場所での安全確保と作業効率
通常、剥離作業にはポリッシャーやバキューム(汚水回収機)を使います。しかし、今回の現場には以下の大きな制約がありました。
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廊下の幅が狭い:大型機械を持ち込むと、作業スペースが極端に狭くなり、作業効率が低下。
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住人の通行が絶えない:剥離剤は非常に滑りやすく、少しでも床に残っていると転倒・骨折という重大事故につながるリスクがあります。
このリスクを考えたとき、「大きな機械は作業の邪魔になるだけでなく、安全通路を確保する妨げにもなる」と判断し、コンパクトな道具と手作業に切り替えることを決断しました。
1. ポリッシャー・バキュームを使わない判断の理由とメリット
大型機械を使わないことは、手作業で労力が増えるデメリットがある一方で、狭い現場ではそれを上回るメリットがあります。
狭い現場や人が頻繁に通る場所での大型機械のデメリット
道具を減らすことで得られる「作業動線確保」と「汚水飛散リスクの低減」
今回の最大の目的は「安全かつ確実に剥離すること」です。
機械を使わず、バケツと雑巾を駆使することで、汚水が作業エリア外(通行路)に漏れるのを徹底的に防ぎ、常に安全な通路を確保しながら作業を進めることが可能になります。
2. 最重要!安全確保と作業効率を両立させる手順
剥離作業において、安全は最優先事項です。
特に通行人がいる場合は、作業手順よりも安全管理に時間と人員を割く必要があります。
【必須】二人体制の構築: 交通整理役と作業役の役割分担
効率的に作業を進めるために、私たちは二人体制を採用しました。
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作業役:剥離剤の塗布、擦り、汚水回収を集中して行う。
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見守り・交通整理役:
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絶えず通行人に注意を払い、作業エリアに近づかないように声かけをする。
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通行人が通過する際は、安全な通路へ誘導する。
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この分担により、作業役は中断されることなく剥離に集中でき、作業効率を維持できます。
剥離作業中の通行人対策: 滑り止めタオルの用意と安全通路の確保
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作業エリアの明確化:廊下の右側を作業エリアにしたら、左側を完全に通行路として確保します。
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滑り止め対策:通路を確保していても、剥離剤が靴裏についていると危険です。通行人に「こちらのタオルで靴裏を拭いてからお通りください」と声をかけ、乾いたタオル(または濡れタオル)を渡すことで、滑るリスクを最小限に抑えます。
作業エリアの分割: 汚水が通路側に流れないための区画設定
剥離作業は、廊下の幅の半分だけ(例:右半分)を、奥から手前に向かって少しずつ進めます。
通路(左半分)側に汚水が流出しないように細心の注意を払うことで、通路の安全性を確保できます。

3. ポリッシャーを使わない具体的な剥離&洗浄ステップ
ここからが、ポリッシャーを使わない具体的な手作業のノウハウです。
ステップ① 剥離剤塗布と反応: 水でふやかし、古いワックスを溶かす
剥離剤を水で希釈し、剥離するエリアに均一に塗布します。
築年数が経った頑固なワックス層は、剥離剤を塗っただけでは簡単に落ちません。
剥離剤が古いワックスに浸透し、溶かし始めるまで数分間放置し、この間に剥離剤を再度水でふやかして反応を促進させます。
ステップ② 手作業での擦り: デッキブラシ/かなたわしでムラなく擦る
剥離剤がワックスを溶かし始めたら、デッキブラシや、特に頑固な部分にはかなたわし(または研磨パッド)を使って、手作業でゴシゴシと擦ります。
この時、古いワックスがみるみるうちに黒い汚水に変わっていくのが確認できます。
ステップ③ 汚水の回収と中和: 効率的な「2バケツ方式」による水洗いと拭き上げ
ポリッシャーがない場合、最も手間がかかるのがこの汚水処理です。

私たちは以下の「2バケツ方式」で効率を上げました。
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バケツA(清水):綺麗な水と、剥離剤を中和するための中和剤(酸性洗剤)を薄めた水を用意します。
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バケツB(汚水回収):剥離後の黒い汚水で汚れた雑巾を洗うための水を用意します。
具体的な作業は以下の通りです。
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剥離後の汚水を集め(スクイジーで集めるのが効率的)、雑巾でできる限り拭き取ります。
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バケツAの水を床に少量撒き、すぐに別の雑巾で拭き取って、床に残った剥離剤を中和します。
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この作業を数回繰り返すことで、床の剥離剤成分が完全に除去され、床材本来の色が蘇ります。
プロの仕上がりを決める「角・隅」の徹底処理
通行人の目線は、角や隅といった細かい部分に行きがちです。
かがみ込んでの作業は重労働ですが、ポリッシャーでは届かない巾木際や角の部分を、ハンドパッドなどで丁寧に手作業で仕上げることで、仕上がりの評価が格段に上がります。
ここは絶対に妥協してはいけないポイントです。
4. 【結果】半日でピカピカに復活!ビフォーアフター
地道にこの作業を繰り返し、廊下の右半分、左半分と順に剥離・洗浄・乾燥を終えました。
その後、床全面に新しいワックスを2回塗布し、ファンでしっかり乾燥させました。

最初の黒ずんだ状態と比較して、床の色がワントーン明るくなり、清潔感のある光沢が復活しました。作業時間は、通行人の安全確保に時間を割きながらも、同僚二人で約半日で完了させることができました。
作業後に通行した住人の方から「ピカピカになりましたね。ありがとうございます」と感謝の言葉をいただけたのは、何よりも大きなやりがいでした。
5. まとめ:ポリッシャーは「必須」ではない、状況による選択肢である
確かに、広大なフロアであればポリッシャーを使った方が圧倒的に早く、労力も少なくて済みます。
しかし、今回の現場のように「人通りを完全に制御できず、かつ狭い」という制約がある場合、大型の機械はかえって安全リスクを高め、作業効率を低下させる原因となります。
手作業剥離が最適解となる現場の判断基準
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廊下幅が1メートル以下で、機械の取り回しが困難な現場。
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人の往来が頻繁で、一時的に通行止めにできない現場。
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道具の搬入・搬出経路が狭く、機械の持ち運び自体が重労働になる現場。
このような特殊な現場では、今回ご紹介した「二人体制」と「2バケツ方式」を組み合わせた手作業での剥離・洗浄が、安全と品質を両立させるための最適解となります。
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