ハウスクリーニングの現場で何よりも恐ろしいのは、「後戻り」の作業が発生することです。
今回の失敗の原因は、まさにワックス塗布前の基本中の基本、ノリや異物の除去の見落としにありました。
日当たりの悪い洋間でのノリの見落とし対策
現場に入ったら、床板の汚れは一目瞭然のはず。
しかし、なぜ今回は見落としたのか。
それは、その洋間が極端に日当たりが悪かったからです。
ノリや両面テープの跡は、半透明でテカリがある場合が多く、太陽光や強い照明が斜めに当たることで、その凹凸や光沢が浮かび上がって初めて認識できます。
ところが、薄暗い部屋ではそのコントラストが生まれず、フローリングの木目や薄いホコリと区別がつきにくいのです。
「触覚」が頼り!ノリを100%見つけるための最終チェック
私が導き出した結論は、視覚だけに頼るのは危険ということです。
ワックスを塗る直前、床が完全に乾燥している状態になったら、私は腰を落として、手で触りながら念入りに確認するようにしています。
手のひらや指の腹で床を撫でるように滑らせると、目では見えなかったわずかな粘着感や、ノリが固まったことによるざらつきが、確実に伝わってきます。
これは「やりすぎ」ではありません。
この一手間を惜しんだために、後で全面剥離という手間とコストが発生することを考えれば、この触覚による最終チェックこそが、プロとしての鉄則なのです。
【失敗事例】ワックス塗布後のノリ発覚!部分剥離を決断した理由
清掃を終え、いよいよワックスの最終仕上げ。
綺麗にワックスを塗布した瞬間、私は「やってしまった」と確信しました。
ノリの上にワックスが乗ると、その部分だけが周囲と異なるテカリ方をする、半径5cmほどのクレーター状の跡が、光の反射でくっきりと浮かび上がったのです。
放っておくとわかる大きさ:半径5cmのワックスの跡
この大きさの跡は、オーナー様や次の入居者様が部屋を内覧した際、必ず指摘されるレベルです。
プロの清掃会社として引き渡す以上、この瑕疵を放置する選択肢はあり得ません。
全面剥離はもったいない!部分剥離のメリットとリスク
もちろん、最も確実なのは洋間全体を再度剥離し、ワックスを塗り直すことです。
しかし、たった2枚の床板、半径5cm程度のノリのために、労力、時間、剥離剤のコストをかけるのはあまりにも非効率です。
そこで、私はリスクを承知の上で「部分剥離」を決断しました。
部分剥離の成功は、周囲の床板を絶対に傷つけない液体のコントロールにかかっています。
一滴でも剥離剤を垂らしてしまえば、その隣の板まで剥離しなければならず、作業範囲がどんどん広がってしまう。
まさに神経を削る作業ですが、成功すれば大幅な時短になります。
プロの裏技:養生テープなしでフローリングを「部分剥離」する方法
私は今回、時間を短縮するため、そして自分の技術を試すために、あえて養生テープを一切使いませんでした。
床板の境界線は、自分の道具と集中力で守り抜く。それがプロの仕事です。
刷毛とメラミンスポンジが主役!液だれ厳禁の剥離テクニック
今回使用したのは、プロ御用達のリンレイ製業務用剥離剤「オールゴー」です。
通常は10倍程度に希釈するところ、今回はワックス層が薄く、かつ部分剥離で短時間での勝負だったため、少し濃いめの3倍希釈で使用しました。
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刷毛で薄膜を張る: 剥離剤を水で薄めた液体は、液だれが命取りになります。周囲の床板を保護するため、刷毛を使い、剥離したい2枚の床板の上に「膜を張るかのように、垂れないギリギリの量」を慎重に塗布します。この時、刷毛の毛先に液体を溜めすぎないのがコツです。
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再度薄く塗布し、即座に回収: 1分ほど置いた後、再度、極薄く剥離溶液を塗ると、ワックスが溶けて浮き上がってくる感触があります。そこで間髪入れず、乾拭き雑巾を使い、ある程度力を入れて液体を溶けたワックスごと吸い上げます。木材に浸透させないよう、この「塗布→吸い上げ」のスピードが重要です。
床板のきわ数ミリを確実に剥がすメラミンスポンジ活用術
ほとんどのワックスは雑巾で剥離できましたが、どうしても床板の際(きわ)数ミリだけが剥げずに残ってしまいます。
この部分に剥離剤を足すのは非常に危険です。
ここで活躍するのがメラミンスポンジです。
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ピンポイントの研磨力: 湿らせたメラミンスポンジで、剥げ残ったきわの部分だけを最小限の力で擦ります。メラミンスポンジの微細な研磨力が、液体の飛散を抑えつつ、残ったワックス層を効率良く除去してくれました。
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液体の回収力: 擦る際に剥離剤の液体が飛散しそうになったら、すぐに乾いた雑巾で受け止めます。
この一連の作業により、床板2枚のワックス剥がしとノリの除去は、10分ほどで完了しました。ごそっと穴が空いたような状態になりましたが、周囲の床板に剥離剤が染み込むことはありませんでした。
【プロからの注意点】 剥離剤はアルカリ性で強力です。フローリングの木材自体に染み込むとシミになるリスクがあるため、塗布したらすぐに吸い取ることが、部分剥離を成功させる絶対条件です。
【仕上げ】養生テープを駆使した部分ワックス塗布と完璧な境界線
無事剥離が完了した後は、ワックスの再塗布です。
剥離時とは異なり、このワックス塗布の工程では、迷わず養生テープを使用しました。
剥離部分と周囲のワックスの厚みを合わせるコツ
剥離した部分だけを塗ると、乾燥後に周囲とのワックスの厚みの差が目立ってしまいます。これを防ぐのが、養生テープによる物理的な区切りです。
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剥離した板の周囲を養生: 剥離した床板2枚の周囲、隣接する全ての板に、境目が綺麗に出るように養生テープを貼り付けます。
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テープのキワまで塗布: ワックスモップを使い、剥離部分にワックスを塗布します。この時、養生テープの上にも躊躇なく塗布する勢いで、境目を完全にカバーするように塗るのがポイントです。
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完璧な境目: ワックスが半乾きの状態になったら、テープを剥がします。テープのキワまでしっかりとワックスが乗っているため、剥がした後の境界線が非常にシャープで、新しいワックス層と古いワックス層の段差が目立ちにくい、自然な仕上がりになりました。私はこの部分に、今回はワックスモップで2層重ね塗りをして、周囲とのバランスを取りました。
安価な養生テープを惜しまず使う理由
「養生テープを結構消費する」と思われるかもしれません。
しかし、安価な養生テープを惜しんで仕上がりが悪くなる、あるいは後からクレームが入ることを考えれば、これは最も安上がりで確実な投資です。
部分剥離や部分ワックスは、養生の手間さえ惜しまなければ、養生テープなしでの剥離作業とは異なり、仕上がりは非常に綺麗に決まると再認識しました。
これからも、今回の経験を活かし、内装のノリの確認は「やりすぎているくらい」に徹底していきます。
同業者の方々も、もしもの際のリカバリー術として、この記事が参考になれば幸いです。
【読者へのFAQ】フローリング部分剥離に関するQ&A
この困難な部分剥離作業を成功させるためには、技術だけでなく、リスク管理と知識が不可欠です。
読者の皆様が抱えるであろう、最も技術的で重要な疑問にお答えします。
Q1. 部分ワックス後の境目は、本当に時間が経っても目立ってきませんか?
A. 境目が目立つ主な原因は、ワックスの「厚みの差」と「塗布範囲のムラ」です。今回のように養生テープで境界を物理的に区切り、剥離部分全体にワックスを2層重ね塗りすることで、厚みを周囲に合わせることが可能です。また、剥離した板の古いワックス層は完全になくなっているため、新しいワックスが均一に定着し、時間が経過しても極端な劣化やムラが生じるリスクは低くなります。完璧な仕上がりには、ワックスの種類を周囲の既存ワックスと合わせることも重要です。
Q2. 剥離剤が木材に染み込んでしまった場合、どのように対処すべきですか?
A. 剥離剤(オールゴーのようなアルカリ性溶剤)がフローリングの隙間から木材に浸透すると、シミや変色を引き起こすリスクがあります。万が一、液体を垂らしたり染み込ませてしまった場合は、パニックにならず、すぐに水で希釈し、中性洗剤などで中和を試みながら、乾いた雑巾で徹底的に拭き上げ、乾燥させることが最優先です。しかし、これが起こるとリカバリーは非常に困難であり、プロの立場としては「染み込ませないこと」が唯一の正解です。
Q3. 剥離作業に使ったメラミンスポンジは、他のフローリングのシミ抜きにも使えますか?
A. メラミンスポンジは微細な研磨力を持つため、今回の「きわの残ったワックスを削り取る」という作業には最適でした。しかし、日常的なシミ抜きに使うのは推奨しません。ワックス層全体を削り取り、かえってそこだけ光沢がなくなってムラになるためです。あくまで、今回の剥離後の「ピンポイントの異物除去」という特殊な用途に限定すべき道具です。
Q4. 剥離剤(オールゴー)使用時に特に注意すべき安全対策はありますか?
A. 業務用剥離剤は強力なアルカリ性溶剤であり、取り扱いを誤ると非常に危険です。
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換気: 閉め切った空間での使用は厳禁です。窓を開け、必ず換気を行ってください。
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保護具: 皮膚や目に触れると炎症を起こすため、耐薬品性のゴム手袋と保護メガネの着用は義務です。
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中和: 作業後は使用した道具や床に残った剥離剤を、完全に中和・水拭きすることが、自分自身と床材を守るための最終的な安全対策となります。
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