はじめに:ハウスクリーニング30年の経験から得た「継続の秘訣」
ハウスクリーニングの仕事に携わり、今日で30年を超えました。
30年間続けてきた秘訣は何でしょうか?
「体力」でも「諦めの悪さ」でもなく、私がたどり着いた結論は、「目の前の汚れを冷静に見極めること」です。
一見すると手に負えない「激しい汚れ」に見えても、その正体を見抜くことができれば、使う洗剤も、費やす時間も、そして何より作業のストレスも激減します。
今回は、最近の現場で遭遇したワンルームマンションのレンジフードクリーニングを事例に、汚れの「見極め方」とその後の作業効率の変化について、私のプロの視点から詳しく解説します。
1. 【現場報告】ワンルームキッチンで見た「落とし穴」
1-1. 「未使用に近い」現場で油断したプロの誤算
今回の現場は、築浅のワンルームマンション。退去後のハウスクリーニングです。
キッチンは一見、ほとんど使われていない様子でした。コンロ周りにも焦げ付きや油はねが見当たらず、「今回は楽勝だ」と正直、油断していました。
しかし、この仕事は見た目に騙されることが多々あります。勝負の分かれ目はいつも、レンジフードの内部です。
1-2. 騙された!フィルターに詰まっていた「ベトベト汚れ」の正体
「楽勝ムード」でレンジフードの中を開けてみると、思わず「ギョッ」としました。
予想に反して、アルミのフィルターやその内部のファンに、茶色くベタついた汚れがびっしりと詰まっていたのです。
これはまるで、何年も掃除をしていないラーメン屋の換気扇のような状態でした。

「騙された…」という気分になったわけですが、ここで重要なのは動揺しないこと。経験上、見た目のインパクトと、実際の作業難易度は必ずしも一致しません。
2. その汚れは油じゃない!プロが見抜く「埃/油」の見分け方
2-1. 【触診と視覚】ベトベト(油)とネタッと(埃)の決定的な違い
一見して「ベトベトな油汚れ」に見えたこの汚れを、冷静に観察しました。
今回の汚れは、網の部分は少しベタついた埃が詰まっていましたが、フィルター周りやファンには、ほとんど油の固着が見られませんでした。
これは、油分をほとんど含まない**「埃が濃縮された汚れ」**だったのです。
2-2. なぜ油が少ないのに換気扇が汚れるのか?(汚れの発生メカニズム)
レンジフードがこれほど埃で目詰まりした原因は、キッチン使用頻度ではなく**「室内の換気状況の悪さ」**にあります。
部屋の換気システムが不十分であったり、窓を開ける習慣がない場合、室内の埃や綿ゴミを換気扇が強制的に吸い上げ続けます。
油分が少ない埃だけが長時間にわたってフィルターに堆積し、空気中の水蒸気や僅かな油分を吸着することで「ネタッとした塊」になっていたわけです。
つまり、換気扇は料理の煙を吸っていたのではなく、部屋の空気清浄機代わりになっていました。
3. 油汚れより実は怖い!素材を変質させるアルカリ洗剤のリスク
汚れの正体が油ではないと分かれば、作業の難易度は劇的に下がります。
3-1. 本物の油汚れの場合:強いアルカリ洗剤の功罪と**「熱の力」**
本物のベトベトな油汚れは、酸性の油を分解するために強力なアルカリ洗剤が必要となります。
しかし、プロとして恐れるべきは、強いアルカリ洗剤による素材の変色リスクです。特にアルミ製のフィルターや部品は、苛性ソーダなどの強アルカリ洗剤に長時間触れると、化学反応を起こして白く変色したり、水玉模様のようなシミが残ったりします。一度変色すると元には戻せません。
💡 プロの裏技:不必要なつけ置きを避ける「熱湯の活用」
頑固に固着した油汚れも、油の融点以上に熱を加えることで粘度が下がり、非常に柔らかくなります。熱湯をかけるだけでも、洗剤なしでかなりの油分が流れ落ちてくれます。
この一手間を加えることで、不必要に強い洗剤や、長時間つけ置きをする必要がなくなります。まず熱湯をかけて油を緩ませ、その後で初めて希釈した洗剤を塗布することで、洗剤の使用量を最小限に抑え、結果的に素材へのダメージを大きく軽減できるのです。
3-2. 油汚れがなければストレス激減!判断一つで得られるメリット
今回の汚れが「埃汚れ」だと見極めたことで、強い洗剤を使う必要がなくなり、以下のメリットが得られました。
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素材変色リスク:ゼロ
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洗剤コスト:大幅減
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作業時間:半分以下に短縮
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作業ストレス:激減
4. 汚れを見極めれば作業ストレス激減!埃汚れの「神対応」掃除術
埃汚れと判明したため、今回のクリーニングプロセスは非常にシンプルになりました。
4-1. 埃汚れ専用の簡単クリーニングプロセス
結果、フィルターもファンも、まるで新品のようにピカピカになりました。
この「一見汚いなあと思えても冷静になること」こそが、プロとして長く健康的に働き続けるための最大のスキルだと改めて思いました。
5. 【FAQ】ハウスクリーニング30年職人に聞く「汚れ」と「洗剤」の疑問
Q1. 換気扇のフィルター掃除はどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 料理の頻度によりますが、油汚れを気にされるなら3ヶ月に一度の掃除を推奨します。ただし、今回の事例のように油分が少なく、埃汚れがメインの場合は、年に一度の清掃でも問題ありません。重要なのは、フィルターが目詰まりしていないか、光に透かして確認することです。
Q2. 市販の洗剤で、プロが「ヤバい」と思う成分は何ですか?
A. 「水酸化ナトリウム」や「水酸化カリウム」が〇%配合されている、と表記された高濃度なアルカリ性洗剤には注意が必要です。これらは非常に強力ですが、先述した通り、アルミ製品や塗装面を簡単に変色させてしまいます。アルミ素材が多いレンジフードには、**「セスキ炭酸ソーダ」**などの中〜弱アルカリ性の洗剤から試すことをおすすめします。
Q3. 築年数の古い換気扇を掃除する際、特に注意すべき点は?
A. 築年数が古い場合、油汚れだけでなく、ケーブルやモーターの劣化にも注意が必要です。無理に分解しようとしてケーブルを断線させたり、モーター内部に水が入ると故障の原因になります。また、塗装が古く弱くなっているため、洗剤を吹き付けたまま長時間放置すると塗装が剥がれるリスクが高まります。
Q4. 軽い汚れと重い汚れの見分けが、なぜプロの継続の秘訣になるのですか?
A. 経験が浅いと、すべてを一律に「最も厄介な油汚れ」と判断し、不必要な手間と素材変色のリスクが増大します。汚れを見極める力は、適切な道具と適切な時間配分を選ぶための羅針盤であり、結果的にプロとして長く健康的に働き続けるための最大のスキルとなるからです。
Q5. ブラシやスポンジについたネトネト油は、どうやって落とすのがベストですか?
A. 油汚れに使った道具をそのままにしておくと、次に使うときに油を広げてしまうため、プロは道具の洗浄も徹底します。ネトネト油を落とすには、以下の手順が最も効率的です。
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予備拭き取りと熱湯: まず、ペーパータオルで余分な油を拭き取ります。その後、熱すぎない40℃~50℃程度のぬるま湯をかけることで、油の粘度を下げ、浮き上がらせます(※耐熱性の低い道具は避けてください)。
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アルカリ剤でつけ置き: バケツにぬるま湯とセスキ炭酸ソーダや重曹などのアルカリ剤を溶かし、ブラシやスポンジを一晩つけ置きます。アルカリ剤が油(酸性)を分解(鹸化)して、繊維の奥の油分を浮き上がらせてくれます。
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仕上げ: つけ置き後、最後に少量の食器用中性洗剤で軽く揉み洗いし、流水で完全にすすぎ切れば、次の作業に気持ちよく使えます。
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