現場を任されている最中に、会社から急な別現場へのヘルプ要請。あなたならどうしますか?
現場歩合制で働く私たちにとって、この指示は大きなストレスです。
「自分の今日の報酬(現場)を中断してまで応じるべきか?」「体力的に無理をしても従うのがプロなのか?」… 責任感と疲労、そして報酬が絡み合うこの状況は、ハウスクリーニング業界特有の難しい葛藤です。
この記事では、実際に現場変更の依頼を経験した筆者が、業務命令の法的義務を前提としつつ、自分のコンディションと作業品質を守りながら、会社との信頼関係を壊さずに指示を断るための具体的な交渉術を公開します。
もう無理な指示に流される必要はありません。
プロとして納得のいく判断をするための知識を身につけましょう。
1. 大前提:業務命令と従業員の義務(法的視点の導入)
まず、この議論を始めるにあたり、雇用形態にかかわらず、従業員として知っておくべき基本的なルールがあります。
📌 指示服従の原則は歩合制でも変わらない
会社と雇用契約を結んでいる以上、私たち従業員には、会社の命令や指示に従う**「職務専念義務」があります。
これは、給与体系が月給制であれ、現場ごとの歩合制**であれ、原則として変わりません。
「自分の現場が最優先だ」という気持ちは理解できますが、会社は全体としての業務遂行に責任を負っており、急な欠員やトラブル対応のために従業員に指示を出す権利(業務命令権)を持っているのです。
🚨 「拒否できる場合」の判断基準:「権利の濫用」
では、私たちはどんな時でも会社の指示に従わなければならないのでしょうか?
そうではありません。業務命令であっても、以下のようなケースで「権利の濫用」と見なされる場合は、従業員はこれを拒否できる可能性があります。
- 労働条件の著しい悪化: 指示により賃金や労働環境が契約上著しく不利になる場合。
- 肉体的・精神的な過度な負担: すでに疲労が極度に達しており、作業の継続が安全上のリスクとなる場合。
- 正当な理由のない差別的・嫌がらせ的な命令。
私たちハウスクリーニングの仕事においては、「疲労による作業品質の低下」や「安全性の確保」が、正当な拒否の根拠となり得ます。
2. 実録:私が現場変更を断った理由と交渉プロセス
実際に私が経験した、急な現場変更指示と、それに対する交渉のプロセスをご紹介します。
🏢 当時の状況:断らざるを得なかった理由
ある日の昼食時、会社から急ぎの現場対応を依頼されました。
しかし、当時の私は、指示に応じることは不可能だと判断しました。
その根拠は、単なる「疲れた」という感情論ではありません。
- 極度の肉体疲労: 午前中の現場が想像以上にハードでした。特にキッチンの油汚れがギトギトで、普段より体力を大きく消耗していました。
- 予期せぬアクシデント: さらに、現場でキッチンの流しに水漏れがあり、道具や雑巾をすすぐのに苦労するなど、予定外の時間と労力がかかっていました。
- 環境上の制約: ベランダの排水作業も、隣の家への配慮から思うように進められず、作業効率が落ちていました。
この状態から新たな現場へ向かうことは、プロとしてお客様に提供すべき作業品質を保証できないと強く感じたのです。
🗣️ 賢明な交渉術:「プロフェッショナルな断り方」
私は感情的に「無理です」と返答する代わりに、以下のステップで会社に現在の状況を説明しました。
この丁寧な交渉が、指示を撤回してもらう鍵となりました。
1. クッション言葉で配慮を示す
まず、会社の事情を理解していることを示し、心理的な障壁を取り除きます。
「困っているところ、ご連絡いただき大変申し訳ないのですが…」
2. 具体的な根拠(品質と安全)を提示する
抽象的な言葉ではなく、会社が納得せざるを得ない**「品質」と「責任」**を理由に挙げます。
「午前中にキッチンの油汚れと水漏れ対応で想定外の負荷がかかっており、現在、極度に疲労しています。このコンディションで新しい現場へ向かっても、作業の質が低下し、かえってクレームや事故につながるリスクがあります。」
3. 最初の責任を全うする意思を示す
あくまで「職務を放棄する」のではなく、「最初の職務に専念する」という強い責任感を伝えます。
「つきましては、大変心苦しいのですが、このまま現在の現場を続けさせていただき、責任をもって今日中に必ず仕上げたいのですが、ご検討いただけないでしょうか?」
結果として、会社は私の体調と、「品質を維持したい」というプロとしての判断を理解してくれました。
3. 交渉の結果とその後
会社からの理解を得られたとはいえ、それで終わりではありません。断った後の対応こそが、プロとしての信用を左右します。
🤝 会社は納得してくれたが、プロの責任は増す
「分かりました。では頑張って今の現場は今日仕上げてください」という返答を受け取った私は、その場で約束した通り、現在の現場を責任を持ってその日中に、そしてクレームが出ない品質で仕上げることに全力を注ぎました。
これは、自分の判断が正しかったと証明し、今後の信頼を維持するために不可欠な行動です。
ちなみに、私が断った急ぎの現場は、最終的に他の同僚が対応し、無事に完了したとのことでした。
👨👦👦 同僚との関係:持ちつ持たれつの精神
自分の判断が優先できたとはいえ、協力してくれた同僚への配慮は欠かせません。
私は、作業後にすぐ同僚に「断ってごめん」というメッセージを送り、現場の状況や、自分の現場を今日中に完了させたかった理由などを丁寧に伝えました。
同僚からの返信で、お互いに悪い感情は残らなかったと受け取ることができました。
「人は人、自分は自分」という考え方は大切ですが、現場仕事においては「持ちつ持たれつ」の関係が不可欠です。
「あいつは自分勝手だ」と誤解されないためにも、日頃からのコミュニケーションと、いざという時の配慮が、長期的に働き続ける上で重要になります。
4. まとめ:自分の仕事と信用を守るために
✅ 結論の再確認:賢明な「断る権利」を行使する
従業員は原則として会社の業務命令に従う義務がありますが、「作業品質の維持」「安全性の確保」「過度な負担の回避」といったプロフェッショナルな理由がある場合は、丁寧に理由を説明することで交渉の余地は十分にあります。
感情的な拒否ではなく、「このままではお客様に迷惑がかかる」という品質責任を根拠に交渉することが、会社に最も響く「プロの断り方」です。
💼 今後の意識:柔軟な姿勢が鍵
今回の経験を通じて、私は「自分の責任を果たすこと」と「柔軟な対応力を持つこと」のバランスの重要性を再認識しました。
- まずは割り当てられた自分の仕事に集中し、最高の品質で完了させる。
- しかし、体力や精神に余裕があるときは、会社の要請にできる限り応じる。
この柔軟な姿勢こそが、会社からの信用と、現場で助け合える仲間との信頼関係を守り、結果として長く安定して働くことにつながります。
この記事を読んでくださったあなたが、現場での難しい判断に直面した際、プロとして納得のいく賢明な選択ができるよう願っています。
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