ハウスクリーニングの仕上げで、フローリングワックスにわずかに残ったシミやムラ……。
「この程度なら洗浄でごまかせるか?」
「いや、クレームリスクを考えて剥離すべきか?」
経験豊富なプロでも、この【剥離 vs 洗浄】の判断に迷うことは少なくありません。特に、光の当たり具合で目立つ「泣かせのシミ」は厄介です。
長年にわたり数多くの現場を経験してきた私から見ても、この小さなシミへの対応こそ、プロの技量と顧客満足度を分ける最大のポイントだと断言できます。
本記事では、清掃現場で数々の修羅場をくぐり抜けてきた筆者が、ワックスシミの仕上がりを左右する「判断基準」を徹底解説。
さらに、高額な全体剥離を納得してもらうための「クレームゼロ交渉術」まで、具体的なノウハウをすべて公開します。
1. はじめに:ワックス剥離 or 洗浄?プロの永遠の悩み
私たちが現場で直面するフローリングのシミは、そのほとんどが通常の洗剤では落ちない、ワックス層の奥に入り込んだ汚れや、過去のワックスムラが原因です。
そのまま上からワックスを厚く塗っても、シミは消えるどころか、逆にワックス層の下で浮き上がって目立つ結果となり、仕上げのチェック時に必ずクレームの原因となります。
特に、ハウスクリーニングのプロとして完璧な仕上がりを目指す以上、「手間をかけずに綺麗に済ませたい」という気持ちと、「最高の品質を提供したい」というプロ意識の板挟みになる瞬間です。
この悩みを解消するための具体的なステップを見ていきましょう。
2. 判断基準:そのシミは「洗浄」でごまかせるレベルか?
まず、シミの性質を見極めることが第一歩です。
長年の経験から、このシミは洗浄後のワックス塗布で許容されるか、それとも剥離が必要かの判断基準は以下の2点に集約されます。
2.1. 太陽光・蛍光灯の下での「視認性」
最も重要なのは、引き渡し時の照明下で目立つかどうかです。

もっと近くで見るとこんな感じ。

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⚠️ 剥離が必須なシミ:
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窓からの直射日光が当たる箇所で、角度を変えてもはっきり確認できる色の濃いシミ。
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ワックスの塗り重ねによるムラや白濁で、光を反射する箇所。
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✅ 洗浄で許容可能なシミ:
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直射日光や強い照明を当てなければ見えないごく薄い跡。
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家具の下など、陽が当たらず、人が滞在しない隅の部分にある小さな汚れ。
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2.2. シミがワックス「層の下」にあるか「表面」にあるか
シミがワックス層のどの深さにあるかによって、取るべき処置が変わります。
この記事で問題にしているのは、写真のような「洗浄だけでは取りきれない、ワックス層の下のわずかなシミ」です。
3. クレーム回避の交渉術:担当者への説明手順と最善策
シミが「剥離しなければ消えない」と判断した場合、手間と追加料金が発生する「全体剥離」をいかにスムーズに承諾してもらうかが、プロの腕の見せ所です。
担当者(顧客)に連絡する際は、事実を伝え、選択肢を示し、最善策のメリットを強調することが重要です。
3.1. ステップ1:現状の報告と通常の洗いでは限界があることの説明
まず、シミの状況をスマホなどで撮影し、画像を送付します。
【推奨フレーズ】 「現状、フローリングに過去のワックスや汚れの跡が残っている箇所が確認できました。通常の洗剤と洗浄機による清掃では、これ以上の除去は難しく、このままワックスを塗布すると、乾燥後にシミが浮き出てしまうリスクがあります。」
3.2. ステップ2:担当者の意向を確認し、選択肢を提示する
この時点で、担当者が「そのままで良い」と判断すれば、そのまま進めます。
しかし、「なんとかならないか」と言われた場合は、最善策を提示します。
【推奨フレーズ】 「このシミを確実に、かつムラなく解消する最善の方法は、一度部屋全体の古いワックスを剥離し、床面をゼロの状態に戻してから、新しいワックスを塗布し直すことです。これは追加料金と作業時間をいただきますが、仕上がりは保証されます。」
3.3. ステップ3:全体剥離のメリットを強調する
お客様は「なぜ小さなシミのために全体剥離が必要なのか」と考えます。
ここで、全体剥離のプロフェッショナルなメリットを伝え、部分剥離のデメリットを間接的に伝えます。
この説得の流れで、たいていの担当者は「追加料金を払ってでも確実な仕上がり」を選んでくれるでしょう。
4. 【最善策】全体剥離が部分剥離より「楽で確実」な3つの理由
「全体剥離は時間がかかる」と思われがちですが、ワンルームなどの物件では、部分剥離を試みるよりも、結果的に時間も手間もかからないケースがほとんどです。
4.1. 理由1:剥離剤の「こぼし」リスクを恐れる必要がない
剥離剤は強力なため、部分剥離を試みると、シミのない周りの箇所に飛び散らないよう、厳重な養生と細心の注意が必要です。
ほんの少しでも垂れれば、新たな剥離跡ができてしまいます。
全体剥離であれば、その神経をすり減らす作業は不要です。
剥離剤を堂々と使用し、広範囲を一気に作業できます。
4.2. 理由2:剥離ムラがそのまま仕上がりムラになる
部分剥離では、剥離した箇所としなかった箇所のワックス層の厚みや光沢が異なり、必ず境目ができます。
ワックスを塗り重ねても、この境目が光の加減で露呈しやすく、これもまたクレームの原因となります。
一度全体を剥離すれば、その後のワックス塗布は均一な層となり、完璧な仕上がりを保証できます。
4.3. 理由3:苦労の割に料金が見合わない
長年の経験から言いますが、部分剥離は手間、難易度、神経のすり減りにおいて、全体剥離とほとんど変わりません。
場合によっては、養生や修正の手間で部分剥離の方が時間がかかることもあります。それなのに、追加でいただける料金は全体剥離より低くなることが多く、作業者として一番割損になってしまいます。
そのため、ワンルームであれば「全体剥離の作業時間は1時間程度で完了します」と伝え、効率と確実性を優先するようお勧めすべきです。
5. やむを得ない場合の「部分剥離」:リスクと最小限に抑える手順
とはいえ、お客様の予算や工期の都合上、「どうしても部分剥離で済ませてほしい」と依頼されるケースもゼロではありません。
全体剥離を強く推奨した上で、最終手段として部分剥離を行う場合は、次のリスクと対策を徹底する必要があります。
難易度が高く、失敗が許されない作業であることを肝に銘じてください。
5.1. 最大のリスク:「剥離ムラ」を防ぐための道具とコツ
部分剥離の成否は、剥離液の**「均一な塗布」と「完全な回収」**にかかっています。
5.2. 部分剥離の具体的な工程(ワンルームの例)
全体剥離とそれほど時間は変わらないことを示すため、工程の煩雑さを意識して記述します。
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徹底した養生: シミのある木全体を、外側からマスキングテープでしっかり二重に貼り付けます。
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剥離剤の塗布と放置: 剥離剤の原液を適量こぼし、1〜2分だけ放置します。放置しすぎは床材へのダメージになります。
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吸い取り(回収): 水で濡らしたメラミンスポンジで、剥離液を根こそぎ吸い取るように拭き取ります。
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中和と乾燥: 濡れた雑巾で丁寧に水拭きし、完全に剥離剤の成分が残らないよう中和させます。その後、扇風機などで完全に乾燥させます。
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ワックス塗布前の確認と再修正: 剥離した木の周りに剥離剤が染みていないかを確認します。もし周りの木にも影響が出ていたら、その部分も剥離する羽目になります。
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ワックス塗布: 再度マスカーテープを貼り、剥離した箇所にだけワックスを丁寧に塗布します(塗りすぎないように注意)。
繰り返しますが、ワンルームであれば、この手間をかけるよりも最初から全体剥離を提案した方が、結果的に綺麗かつ早く仕上がります。
部分剥離は、「これだけ手間がかかる」ということを担当者へ伝えるための参考情報として捉えるのが賢明です。
6. 剥離後の努力を無駄にしない!完璧なワックス塗布で仕上げるコツ
ワックス剥離後の努力を無駄にしないための、完璧なワックス塗布のコツについて解説します。
6.1. 塗布前の最重要チェック:徹底した乾燥とゴミ除去
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完全な乾燥の確認: 扇風機を使い、床材の目地(継ぎ目)まで完全に乾燥させ、素手で触って湿り気がないことを確認します。
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髪の毛・ホコリの最終除去: 塗布直前に、粘着性の高いコロコロローラーや濡れていない静電気モップで床面全体を丁寧に巡回し、ホコリや髪の毛を徹底的に除去します。
6.2. ワックスの「適正量」と「塗り逃げ」技術
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ワックスの適正量を守る: 塗りすぎは乾燥ムラや厚塗りによる波打ちの原因です。モップの幅からわずかにあふれる程度の量で、薄く均一に塗ることを意識してください。
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「塗り逃げ」を意識した塗布順序: 部屋の最も奥から塗り始め、出口(扉)に向かって、一方通行で塗布します。1ブロック塗るごとに、モップの幅を1/3程度重ねるようにして次を塗ることで、塗り継ぎのムラを防ぎます。
6.3. モップ跡(筋)を残さないための道具選びとテクニック
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モップの均一な加圧: モップ全体に均等にワックス液が染み込み、床に触れているか確認しながら、力を均一にして塗布します。
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隅の処理: モップの入らない壁際や隅は、小さい刷毛や専用のミニパッドを使い、ワックスを「置いていく」感覚で丁寧に塗布します。
7. まとめ:現場で即役立つ「ワックスシミ対応」クレームゼロ徹底チェックリスト
判断に迷った時や、作業開始前に、このリストを上から順にチェックすることで、トラブルなく最高の仕上がりを実現できます。
ステージ 1:【判断・交渉】剥離の要否チェックリスト
ステージ 2:【実行】剥離作業(全体剥離)チェックリスト
ステージ 3:【仕上げ】ワックス塗布(クレームゼロ)チェックリスト
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